企業価値の算出方法について (DCF法編)

「会社の価値は、いくらだろうか?」と問われた時、どのように計算するかご存知ですか。

Discounted cash flow analysis、Comparable company analysis、Comparable transaction analysisなどありますが、今回はDCFを紹介したいと思います。
いくつもステップと計算が必要なので、めんどうなことが嫌いな方は、読み飛ばしてください。

DCFはDiscount Cash Flowの略で、「割引キャッシュフロー法」とも言われます。DCF法は、将来事業が生み出す期待キャッシュフロー全体を割引率で割り引いて企業価値を算出する方法です。

  • ステージ1: FCFの計算方法

フリーキャッシュフロー(FCF)とは、政府に税金を支払い、事業に必要な投資を行った後に債権者と株主に分配可能なキャッシュフローのことを指します。FCFを求めるのに、つぎの3つのステップが必要です。
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サンプルを使って、実際にステップ毎に計算してみます。
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ステップ1
金利費用を純利益に追加します。このステップは、利払いからタックス・シールドを取り除くことが目的です。ここでは、税率が35%として計算してみます。
2017年の Unlevered net income = Net income + Net interest after tax
Net interest after tax = (Interest expense - Interest income) * (1 - tax rate)
つまり、 $2,296 + 642(1 - 0.35) = $2,713 = $2.713 million

ステップ2
NOPLAT(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes)とは、みなし税引後営業利益のことです。営業利益という場合には税引前営業利益を指しているため、営業利益にかかる(みなし)税金控除後の値を使う際にはNOPLATを使用します。
理由は、キャッシュ・フローに影響を与える税務上の減価償却と財務報告目的の減価償却の差を考慮する必要があるからです。企業は、財務報告目的(減価償却費の減少による純利益の増加)よりも、税務目的で早期に有形固定資産の減価償却を報告しています。減価償却の相違は、異なる税額となります。キャッシュ・フローへの影響を計上するため、繰延税金の変動を未実現純利益に加算します。
よって、2017年のNOPLAT = Unlevered net income + Change in deffered taxes = $2,713 + (111 - 92) = $2,732 = $2.732 million

ステップ3
NOPLATは、減価償却費(有形固定資産)および償却費および減損額(無形固定資産)を含むNet Noncash Chargesを戻すように調整されます。
そして、フリー・キャッシュ・フローを見積もるために、運転資本および有形固定資産に対する必要または計画された投資の価値を差し引きます。これらは、正味運転資本および設備投資の変化としてそれぞれ計上されます。
よって、2017年のFCF = NOPLAT + NCC - Change in net working capital - Capex = $2,732 + 511 - 455 - 1461 = $1,367 = $1.367 million

2018年から2021年に対しても同様のステップを実行すると、次のような結果になります。ここでは、WACCを9.41%とします。今回は、WACCの計算方法は省略します。各企業のWACCは、インターネットで公開されているので、その数値を使っても同じです。
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つまり、これらの値を使ってFCFの現在価値を求めることができます。スプレッドシートの =NPV(割引率,値 1,[値 2],...)関数を利用すると簡単に求めることができます。
例えば、=NPV(0.0941,B11:F11)のようにして求めることができます。
2017年から2021年のフリーキャッシュフローの現在価値は、$5.802 millionです。ここまでが、ファーストステージです。

  • ステージ2:ターミナルバリュー(継続価値・残存価値)の計算方法

セカンドステージで、ターミナルバリュー(残存価値)を求めます。ターミナルバリューは、○年目から将来に渡って発生するキャッシュフローの合計です。将来の成長率(g)は不確かな数値ですが、だれも分からないので過去の成長率から今後も一定の成長があると見込みで値を決めます。

Terminal Value = FCF(1 + g) ÷ (WACC – g)

Terminal Value 2021 = $1,799(1 + 0.06)/(0.0941 - 0.06) = $55,922 = $55.922 million
ここで1点注意が必要です。この数字は、あくまで将来の値なので、現在価値に換算する必要があります。
つまり、Terminal Value 2016 = $55,922 / (1 + 0.0941)^5 = $35,670 = $35.67 million

または、別の方法でもターミナルバリューを計算することができます。
経験則からざっくりとフリーキャッシュフローの20倍をする方法です。
例えば、 Terminal Value 2021 = 20 * $1,799 = $35,980 = $36.0 million

そして最後に、フリーキャッシュフローの現在価値とターミナルバリューの現在価値を合わせて、企業価値を算出します。
つまり、$5.802 million + $35.67 million = $41.471 million となります。

予測に基づいて計算しているので、あくまで目安という位置付けですが、かなり具体的な参考値となるでしょう。
この数値を参考することによって、企業価値は$80 millionと言われた場合、ぼったくりと判断してもいいでしょう。逆に、$30 millionと言われた場合、お買い得と言えるでしょう。